「天井クレーンに関わる仕事」を紹介していく、お仕事紹介シリーズ。今回は、電気設計にスポットを当ててみたいと思います。確かに、天井クレーンは電気で動きます。でも、「電気」を「設計する」って、一体どういうことなのか。なんとなく難しそう…!?電気設計に取り組み始めてまだ日が浅いという竹田津さんに、お話を伺いました。
竹田津広大|技術部 電気設計
高卒で愛和産業に入社し、メンテナンス、機械設計と複数の業務経験を積んだ後、現在は電気設計を担当する。ちなみに高校時代は陸上選手として活躍し、100mのベストタイムは11秒3。
【基礎知識編】そもそも、電気設計ってなんですか?
――天井クレーンの「電気設計」というのが、あまり想像がつかないです。どんなことをする仕事なんですか?
竹田津 確かに、分かりにくい仕事ですね(笑)。これは当たり前ですが、天井クレーンって電気で動いています。それで、動かしたいものにフックをかけて、手元のコントローラーのボタンを押せばホイスト(※)のモーターが動いてものが吊り上がっていきますね。ここで「なんでボタンを押すとモーターが動くのか」っていうことなんです。それは、「Aというボタンを押す」と電気の信号がさまざまな回路を伝い、巻き上げ装置のモーターまで届き「動け」という指令を届けているからなんです。
※ホイスト…重量物をモーターとワイヤーで上下左右に移動させる巻き上げ装置。
――つまり、天井クレーンのいろんな動作を制御(コントロール)するための電気回路を設計している、ということですか?
竹田津 その通りです。天井クレーンはものを上下左右に移動させたり、クレーン自体が前後に移動したり、いろんな動作をします。これらの動作を実現するためには、さまざまな働きをする電気回路が必要です。回路と回路をどうつなげば正確に挙動するのか、また、不具合が起きないかなどを考えて全体の電気回路を設計する仕事です。
――なんだか、難しそうです。
竹田津 でも、電気回路って皆さんの身の回りに溢れているんです。テレビのリモコンのスイッチを押せばテレビがつく。エアコンで冷房を28度に設定する。掃除機の吸引パワーをマックスにする。これって全部、内部に組み込まれた電気回路が、人間からの「こう動かしたい」という指令を届けているからなんです。
――なるほど、確かに身近なものの中にもあるって想像すると…なんとなくイメージがしやすいかもしれないです。
【キャリア編】仕事を通して電気設計の知識を学んでいった。
――すごく専門性が高そうな仕事です。竹田津さんは、もともと電気が専門なんですか?
竹田津 それが違うんです。高校は機械科でしたし、愛和産業に入社してからは10年以上メンテナンスを担当していました。その後に設計に異動しましたが、数年間は機械設計をしていましたので、電気設計を担当するようになってからまだ日が浅く、勉強しないといけないことが山ほどあると感じています。
――電気関係の知識は仕事をしながら身につけていったんですね。
竹田津 まだまだ、これからって感じです。ただ、メンテナンスとして天井クレーンの点検や修理をしていましたので、当然、メンテナンスに必要な電気の知識は勉強をしていました。ただ、設計としてイチから回路を設計するとなると、必要な知識レベルが違います。
――設計チームには、他にも電気設計を担当している先輩がいるんですか?
竹田津 設計の部署だと全員で6名。そのうち、機械設計の担当が3名で、電気設計の担当が3名います。私は、電気設計チームの中では一番の下っ端ですね。経験豊富な先輩方がいますので、分からないことは逐一教えてもらいながら、仕事を進めています。
――先輩の皆さんもやはり、最初はメンテナンスで経験を積んできたんですか?
竹田津 だいたいそうですね。設計だけをやってきた人っていないんじゃないかな。やっぱり現場を知ることって重要ですから。私も、どんな現場で、どのように天井クレーンが使われているかということは、メンテナンスの仕事を通して学びました。
【応用編】お客様の細かな要望を叶える電気設計の力。
――設計だと、仕事の流れは上流に位置していますね。どんな形で仕事がスタートするのでしょう?
竹田津 まずはお客様の要望をヒアリングするところから仕事が始まります。どんな場所で、どんなものを運ぶために、どんな天井クレーンが必要なのか。設置条件や使い方などを詳しくヒアリングし、仕様を定義します。お客様ごとに使い方も要望も違うので、一つひとつの天井クレーンに、お客様専用のカスタマイズが必要です。そこが、大変でもあり面白いところです。
――電気設計に関わる部分では、お客様からどんな要望くるんですか?
竹田津 安全性は重要なポイントです。例えば、天井クレーンって構造によっては最上部の部分、工場の壁と壁に渡している鉄骨の部分が天井クレーンの本体ですが、そこまで階段を伝って登っていけるようになっています。
――上まで登っちゃうと、危なくないですか?
竹田津 危ないですね(笑)。もし、天井クレーンが稼働していることに気づかずに上部まで登ってしまうと、事故の危険性があります。
――事故は、一番避けたい。
竹田津 そのために、電気設計を工夫します。上に登る階段の途中に扉を設置して、もし扉が空いていたら電気をシャットダウンする仕組みを、電気回路でつくるんです。
――なるほど!天井クレーンが動いている時に誰かが登ろうとしたら、クレーンが止まるんですね。
竹田津 そうです。それなら安全でしょう?
――それは安心ですね。そういった工夫は他にもあるんですか?
竹田津 お客様ごとにカスタマイズの要望がたくさんあります。一番多いのがコントローラーに関することですね。今の天井クレーンってだいたい、低速と高速の二速仕様になっているものが多いです。例えば、ボタンを一回押すと低速、2回押すと高速になるという制御になっています。ただ「ボタンを2回押すのが面倒」というお客様もいます。
――ボタンを2回押すくらい、それほど手間じゃない気もしますが(笑)。
竹田津 お客様次第ですね。例えば古くなった天井クレーンを新機種に入れ替えた際、操作方法だけは以前と同じにして欲しいという場合もあります。
――なるほど、操作感が違うと慣れるのに時間もかかるし、もし操作ミスがあったら危ないかもしれない。
竹田津 そうなんです。それで「ボタンを2回押すのが面倒」であれば、一回押すと低速、そのまま押し込むと高速になるという挙動を、電気回路の工夫でつくってあげるわけです。
――そんな細かいことまでできるんですね!
竹田津 できちゃうんです(笑)。お客様ごとに「どんな操作をしたいのか」が違うので、制御方法は細かくカスタマイズします。電気回路をどう設計していくと、お客様の希望する「操作感」を実現できるのかを考えていかないといけないので、毎回大変ですけど(笑)。
【仕事の面白み編】電気を突き詰めて考えていくと…思考が宇宙まで飛んでいく!?
――仕事の手応えを感じるのは、どんな瞬間ですか?
竹田津 最後ですね。電気設計をして、天井クレーンができあがって、お客様の現場に設置をして、現地でブレーカーをあげる瞬間が一番緊張します。
――ちゃんと動いてくれよ、と。
竹田津 めちゃめちゃ怖いですね(笑)。もしブレーカーをあげた瞬間にバン!と、全てが壊れてしまったらどうしようとか。
――そんなこと、あるんですか!?
竹田津 今まで、そうなったことは無いです。でも、想像しちゃうんですよね。それに周りの仲間達も、その瞬間って妙に念押ししてくるんです。お前、大丈夫か?本当に大丈夫か?って。
――それは怖い(笑)。
竹田津 ブレーカーを入れて、電気が通って、想定した通りにきちんと動いているのを目の前で見た時が、「良かったぁ」と思う瞬間です。
――なんだか、分かるような気がします。
竹田津 電気って目に見えないので、本当に難しいです。先人たちが実証済みの回路のつくりかたを応用しているので、大丈夫なはずなんです。でも、その中で電気がどうやって動いているのかは、見えないじゃないですか。頭の中で想像するしかない。だから、いつでも不安はあります。
――試行錯誤しちゃうんですね。
竹田津 回路の中に、こういう部品を組み込めば、こんな働きをしてくれるはずだから、次はここにつないで…と、思考を組み立てていくわけですが、迷い始めるとダメですね。あれ?そもそも電気ってなんだっけ?核があって、周りを電子がぐるぐる回っていて…と、思考が宇宙まで行きそうで、怖いです。
――難しいですね(笑)。
竹田津 終わりがない(笑)。でも、だから面白い。これからも勉強を続けていきたいですね。