天井クレーンに関わる仕事を一つひとつ見ていくと、実に多くの技術が必要なことが分かります。多種多様なクレーンを運転するスキルが必要です。溶接もします。金属を切断したりします。複雑な電気回路を組み合わせて複数の機能を実装します。果たして現場で働く技術者は、いったいどれだけの技能を持っているのか。そこでふと思いました。ひょっとしてみなさん、数えきれないくらいの資格を持っているんじゃないかと。天井クレーンの仕事に必要な資格の数や種類を、ベテランのメンテナンス技術者である岩田さんに伺いました。
岩田宏|メンテナンス部
専門学校で電子制御などを学んだ後、1996年に愛和産業へ新卒入社。以来、現在までメンテナンス部にて天井クレーンのメンテナンスを担当するベテラン技術者。保有している資格の数は「自分でも分からない」と言うほどだが、社内にはさらに強者がいるとか、いないとか。
【必須の資格】あらゆるクレーンを操るプロの証明。「クレーン運転士」という国家資格。
――天井クレーンの仕事をしていると、いろんな資格を山ほど取れると聞きました。
岩田 「山ほど」かどうかは分かりませんが(笑)。天井クレーンに関する仕事をするために必要な資格がいろいろあります。そのため、全員が複数の資格を取得していることは確かです。
――メンテナンスを担当する人が必ず持っている資格ってあるんですか?
岩田 まず、天井クレーンの運転ができないと仕事になりません。そのため、ほぼ全員がクレーン運転士という資格を持っています。正式には「クレーン・デリック運転士免許(一部限定免許もあります)」と言いますが、この資格があれば、世の中に存在するどんなクレーンでも運転することができる資格です。
――クレーンの運転に関する資格だけでも複数あるんですか?
岩田 自動車の運転免許と同じようなイメージですね。普通免許、大型免許でそれぞれ運転できる車種が違うように、クレーンの運転免許もクレーンの種類によって必要な免許が細分化されています。ざっとまとめると…一番簡単なものが、5t未満の床上操作式クレーンを運転するための「クレーン等の運転の業務に係る特別教育」というものです。その一つ上が、5t以上のクレーンの運転ができる「床上操作式クレーン運転技能講習」ですね。この辺りは講習を受ければ取得が可能で、初心者でも取得しやすい資格です。
ただ、当社で取得が推奨されているクレーン運転士の資格は、クレーンの運転免許の中で最上位の資格なので、難易度が少し高いです。
【資格試験こぼれバナシ】かなり大変だったクレーン運転士の試験。
――「クレーン運転士」という資格は、取得が難しいんですか?
岩田 私が取得した時代はとても難しい試験でした。もう20年以上も前の話ですが。ただ、現在は試験の方式が変わっていて、少し難易度が下がっているようです。
――岩田さんが資格を取った時のお話が聞きたいです。
岩田 学科試験と実技試験があって、この2つをパスしないと合格できません。それで最初に学科試験を受けました。試験前の講習などは特に無いので、自力で勉強をしないといけません。ただ、問題集などはあるので、それを見ながら勉強して、学科試験を受けました。これは一回で合格できましたね。
――一発で合格したんですか?すごいですね。
岩田 ただ、その後の実技試験が問題でした…。3回受けてやっと合格したくらいですから。
――実技試験はどんな試験内容だったんですか?
岩田 試験用のクレーンがあって、それを操作して課題をクリアしていきます。例えば「吊り上げた荷物を、目視で2メートルの高さにピッタリ合わせて止める」などの項目がありましたね。それで、少しでもズレていると減点されてしまうんです。
――高さを表示するメーターなどの機能は無いんですか?
岩田 何も無いので完全に目視です。なので、事前練習で2メートルに達するまでの秒数を自分で測り、感覚を掴んでいましたね。
――なかなか、難しそうですね。他にはどんなことをするんですか。
岩田 試験用のコースみたいなものが作ってあって、要所に障害物などが設置されているんです。それで、天井クレーンで荷を吊り上げて、障害物を避けながらコースを進んでいきます。ぶつかれば減点ですし、時間制限もあります。
――何かのコンテストみたいですね、それは緊張しそう。
岩田 その時はかなり緊張しましたね。そのせいもあって、合格までに3回もかかったくらいですから(笑)。
【勉強方法】皆さん、資格取得のための勉強はどのように行っていますか。
――資格取得にあたって会社から費用面でのサポートや、勉強面でのサポートはありますか?
岩田 試験費用は会社が負担してくれます。ただ、勉強はほぼ独学です。みんな個々で問題集を使って勉強し、受験しています。
――全員が集まって勉強会を開く、なんてことはないんですね?
岩田 資格試験のためだけの勉強会を開くことはないですが…。ただ、若い子たちが受験する際には、どんな問題が出るのかとか、試験でどんなことをするのか、仕事の合間に細かく教えていくことはあります。
――資格の取得にはだいたい、どれくらいの時間がかかるんですか?
岩田 先ほどからお話しているクレーン運転士の試験だと、現在は一週間くらいの時間がかかるようです。というのも、私の時代は一発試験でしたが、今は都道府県労働局長登録教習機関において行われています。ここで、クレーン運転実技教習を受け、合格したら免許が取得できます。
――今はちゃんと、実技の講習があるんですね。
岩田 そうなんです。そのため、クレーン運転士の試験も合格しやすくなっているんじゃないでしょうか。
――その他の資格試験もだいたい同じイメージでしょうか。
岩田 いや、そこまで時間をかけるのはクレーン運転士くらいです。例えば危険物の資格なども全員が取得するようにしていますが。その際はだいたい、2日くらいで問題集を使った勉強を行い、試験に1日をかけます。トータル3日間くらいで資格を取得している感覚です。
【資格総まとめ】まだまだある、社内の資格アレコレ。
――岩田さんは現在、何種類の資格を持っていますか?
岩田 正直に言うと、数えたことがないので正確には分かりません(笑)。
――それくらい、たくさんあるということですね(笑)。思いつく限りでいいのですが…。
岩田 そうですねクレーン運転士はお話した通りですが、他には…「玉掛け」
「溶接」「ガス溶断」「高所作業者資格」「危険物取り扱い資格」「作業責任者」
「職長」「小型移動式クレーン」…などでしょうか。他にもあったと思いますが、思い出せません(笑)。
――全部、仕事に必要な資格なんですね。
岩田 どれも必須の資格ですね。クレーンをメンテナンスしたり、修理するためには溶接が欠かせないので、溶接に関する資格も必要です。高所作業や危険物なんかも同じで、作業に必須の資格ですね。
――すべて国家資格なんですか?
岩田 すべてではありません。中には、お客様の現場で定められている独自の資格もあります。大手メーカー関連の工場だと「職長」や「作業責任者」というお客様先で設定している資格がないと、現場での作業ができないこともあります。そのため、同じメンテナンスの技術者であっても、担当するお客様ごとに違う資格が必要だったりします。
――資格を取得していく順番などはあるんでしょうか?
岩田 ある程度、取得の順番みたいなものはあります。作業を覚える順番とリンクするかもしれないですが、例えば「高所作業者」→「感電」→「玉掛け」→「床上操作式クレーン」→「溶接」→「ガス溶接」と、おおよそですが、こんな順番で資格を取っていくと思います。
――仕事のステップごとに必要な資格が増えていく感じでしょうか。
岩田 そうですね。仕事を覚えていく度に資格が増えると思います。現場のリーダーを任されるキャリアになってくれば、管理に関する資格も取得していく必要もあります。その結果、自分が何の資格をいくつ持っているのか、分からなくなっちゃうんですけど(笑)。
――ちなみに、プライベートで資格が役に立ったりしますか?
岩田 あんまりないですね(笑)。たまに、家の屋根に登って伸びてきた庭木の枝を切ったりしますけど。それは資格というより、仕事の経験が役立っているのかな?ただ、家族はあまり褒めてくれませんけど(笑)。