「天井クレーンはあらゆる場所で活躍している機械」とは、愛和産業の技術者がよく口にするセリフです。でも、それって本当?だって、日常生活の中で見かけたことがあるって人は、ほとんどいないはず。そこで、天井クレーンという機械が世の中のどんな場所で活躍していて、どんな役割を人知れず果たしているのか、ベテラン設計者の大竹さんに教えてもらいました。
大竹健太|技術部 課長
愛和産業に入社して20年以上。天井クレーンの機械設計を担当するようになって10年以上のベテラン技術者。設計という仕事の一番の醍醐味は「自分が設計したクレーンが、お客様の現場で稼働している姿を見た瞬間」だと言う。
【天井クレーンがある風景】工場、物流倉庫、ゲームセンター、人気のテーマパーク、どこにでもある。
――大竹さんは、天井クレーン業界で働いて20年以上になるそうですね。あらためて、天井クレーンが“どこにでもある”って本当ですか?
大竹 本当です。皆さんが気づいていないだけで、意外といろんな所にあるんですよ。
――例えば、どんな場所にあるんでしょう?
大竹 当社で扱う天井クレーンで一番多く設置されているのは工場ですね。鉄骨や鉄板など大きな鉄の塊を扱う工場や、特に金型(※)を使ってものをつくる工場には欠かせないです。そうでなくとも、だいたいの工場には天井クレーンが設置され、毎日の仕事を助けています。
※金型…自動車部品などをつくるための鉄製の型。でかい、重い、人力では運べない。
――工場もいいんですが、他にも例があると想像しやすいです。
大竹 では、物流倉庫なんかはどうでしょう。
――物流倉庫というと、トラックが集まるような?
大竹 そうです。大手の運送会社さんだと、荷物が集まる大きな倉庫が日本全国にありますよね。そういう場所でも天井クレーンは欠かせない設備です。
――荷物運びに使うんですか?
大竹 ところがそうではないんです。トラックの積荷を降ろす・積み込む作業はフォークリフトの方が小回りが効いて便利ですから。物流倉庫ってだいたい、大掛かりなベルトコンベア設備があります。その設備の点検や修理の際に、天井クレーンを使うわけです。天井クレーンでベルトコンベアを持ち上げてメンテナンスするイメージですね。なので、普段はあまり稼働してないんですが。
――なんだか縁の下の力持ちみたいですね。
大竹 そうかも知れないですね。だからあまり、人に知られていないのかも知れません。でも、結構メジャーな場所にもあるんですよ。有名なテーマパークとか、街中のゲームセンターとか。
――そうなんですね!見たことがなかったです。
大竹 来場者の目に触れない、裏側にありますから。例えばあるテーマパークには潜水艦のアトラクションがあるのですが、施設の裏側には潜水艦のメンテナンスをするドックみたいな設備があります。そこで、水中から潜水艦を吊り上げてメンテナンスをするために天井クレーンが活躍しています。ゲームセンターでも、裏側の搬入口には天井クレーンがあって、ゲームの筐体の搬出入に使われていますね。
――言われてみれば確かに、どんな場所にも必要な設備ですね。
大竹 そうなんです!他にも例えば…当社の業務領域ではないですが、コンテナ船が到着する港湾施設とか、わかりやすい所だと建設現場では複数のタイプのクレーンが不可欠です。私の経験上、クレーンがない場所って一般住宅くらいじゃないでしょうか。
【こんな所にも天井クレーン】普通だったら入れない、あんな場所やこんな場所。
――今まで、ちょっと珍しい場所の天井クレーンを手がけたことってありますか?
大竹 どの現場も関係者しか入れないような場所ではあるんですが…。水力発電所というのもありましたね。
――水力発電所の中にもあるんですね。
大竹 岐阜の山奥、ダムの中に入っていくと水力発電所があります。発電所のタービンってとにかくデカいんですけど、定期的にメンテナンスをしなきゃいけない。その際に、天井クレーンでタービンを持ち上げてメンテナンスをするわけです。
――なんだかワクワクする光景ですね。
大竹 好きな人は多いかも知れないですね(笑)。他にも変わった場所だと…地下鉄の線路の中でしょうか。夜中、終電後に線路をずっと歩いていくと、線路脇に、レールや枕木なんかを保管している資材スペースがあるんです。そこからトロッコに資材を乗せて工場に送るための場所なのですが。そこでも、トロッコへ積み込むためには天井クレーンが必要なんです。ちなみに、車両工場にも天井クレーンを設置しています。車両メンテナンスのために車両を持ち上げるんですね。
――すごく面白いです。
大竹 普通の人が立ち入れない場所に入っていけるのは、この仕事の役得かもしれないです。
【天井クレーンの機能】用途によってクレーンの構造や機能も違う?
――いろんな場所にある天井クレーンを紹介してくれましたが、それぞれ構造や機能も違うんですか?
大竹 「ものを吊り上げて運ぶ」という用途は同じなので、基本的には同じです。ただ、何を運びたいかによって細かな違いがありますし、大きさもそれぞれ違います。例えば、ゲームセンターのUFOキャッチャーのようにフックが一個しかないシンプルなものもある。また、10メートルくらいの長さの鉄骨を吊り上げたいならフックは2個、電車を一両吊り上げるなら4個のフックが必要になるとか。お客様の用途を考えて設計をしています。
――天井クレーンのコア部品となると、ものを吊り上げて移動させる機構が一番重要なのでしょうか。
大竹 そうですね。ワイヤーの先端でものを引っ掛けるフック部分や、巻き上げて移動させるモーターの機構、それらをひっくるめて「ホイスト」と言います。このホイストをつくるメーカーが国内に数社あって、当社はそのメーカーからホイストを仕入れ、天井クレーンの構造に組み込んでお客様に提供をしています。
――そうすると、日本にある天井クレーンはすべて、ホイストメーカーが提供するいわゆる量産型のホイストを使っているんですか?
大竹 それが、そうとも言い切れません。世の中には特殊な用途で天井クレーンを必要とするお客様もいて、その場合はホイスト部分も含めて全てオーダーメイド製品になります。
【特殊な天井クレーン】世の中には100t~200tを運搬するクレーンもある
――「ホイスト」について、もう少し詳しく知りたいです。
大竹 ホイストには国で定められた細かな等級があり、使用頻度別にA~Fまでランク付けされています。細かく解説をすると専門的な話になってしまうので噛み砕いて表現します。つまり「天井クレーンは設置しているけど稼働時間は短い」という使い方なら、最低等級のAランクのホイストで使用に耐えられます。これが、現場ごとの使用頻度でBCDとランクが上がっていき、「1日中いつも稼働しているし、めちゃくちゃ重いものを運び続ける」という現場になると、最高レベルのEもしくはFランクのホイストが必要になります。
ところが、EもしくはFランクのホイストが必要なほどの現場は日本国内でも限られているために、メーカーも、「E・F」ランクのホイストを製造していないのです。そこで、当社のような専門メーカーがオーダーメイドで製造をするわけです。
――Eランク、Fランクのホイストが必要な現場ってどんな場所なんですか?
大竹 製鉄会社などですね。真っ赤に溶けた鉄を巨大な鋼鉄製のバケツ容器で運搬するシーンが特徴的ですが、あの設備なんかはまさに「E・F」ランクのクレーン設備です。常に稼働し続けているし、100t~200tくらいの耐荷重も必要です。
――100t~200tクラスの天井クレーンも製造しているんですか?
大竹 100t~200tクラスになると日本有数のビッグメーカーの出番になるので、残念ながら当社で手がけた経験は無いです。ただ、50tクラスまでなら製造できる技術があります。「E・F」ランクの天井クレーン設備を扱える数少ないメーカーのうちの一社だと自負しています。
――その分野のクレーンを、もっと手がけていきたいという思いはありますか。
大竹 もちろん、あります。日本で製造できるメーカーは限られていますから、当社の大きな強みになるはずです。ただ、そのためにはもっと、設計、製造、メンテナンスを含めた全ての技術力や生産能力を向上させていかないといけませんね。その点に注力していくのが、今の私の目標です。