30メートルの構造物をぶっ建てる豪快さと、細部への拘り。天井クレーンの製造という仕事とは。

30メートルの構造物をぶっ建てる豪快さと、細部への拘り。天井クレーンの製造という仕事とは。

広い工場内を縦横無尽に動き、人の仕事を助ける天井クレーン。ものによっては、幅や高さが数十メートルに及ぶこともある大きな構造物ですが、いったいどんな人が、どうやって、どれくらいの期間をかけてつくっているのでしょう。天井クレーンの製造とはどんな仕事で、どんな難しさがあるのか、詳しく聞いてみました。

武田貴志|製造部 製造課
製造のキャリアは10年以上。まったくの畑違いの仕事から転職し、知識ゼロから仕事を覚えていったと言う武田さん。今では、製造チームの責任者として複数の職人を指揮し、天井クレーンの製造にあたっています。

【基礎編】天井クレーンの基本的な構造は…まず体育館をイメージしよう。

――「天井クレーンをつくる仕事」について伺いたいのですが、そもそも、天井クレーンって全て同じ形をしているんですか?

武田 用途や設置したい場所によって細かな仕様や大きさは違います。なので、厳密に言えば同じ形のものは一つもありません。ただ、基本的な構造は共通しています。

――なんとなく、まず完成形をイメージしたいです。よくある構造ってどんなものでしょう。

武田 まず工場の建屋をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。工場の建屋…そうだな、体育館みたいな場所です。長方形で奥行きがだいたい50メートルくらい、左右の横幅はバスケットボールのコートがすっぽりハマる30メートルくらい、それで天井が高い。

――工場の建屋は体育館…はい、イメージしました。

武田 で、まず左右の壁の上のほう、天井の少し下あたりに、それぞれ鉄骨のレールが付いています。

――…はい。

武田 その鉄骨のレールの上に、左右の壁を渡すみたいにして、鉄骨が2本あります。住宅の梁みたいな感じですね。

――左右の壁から壁まで、30メートルくらいの鉄骨が2本ですね。

武田 そうです。その、梁みたいな鉄骨にはそれぞれ車輪がついているので、左右のレールを使って縦に動くようになっています。

――はい、かなり大きいですね。

武田 さらに、梁みたいな2本の鉄骨の上には4つの車輪を持つトロッコのようなものがあります。トロッコにはモーター内蔵の巻き上げ機構が搭載されていて、ワイヤーの先端にはものをひっかけるフックが付いています。

――なるほど。それでものを吊り上げて、梁が動けば前後に、トロッコが動けば左右に移動できるわけですね。

武田 そうです。天井クレーンと言えばだいたいそんな構造をしています。それで、私たちがつくるのが、左右の壁に設置するレールの役割をする鉄骨と、壁と壁の間を渡す鉄骨。先ほど「梁」と例えましたが、正しくは「桁(けた)」と呼んでいます。まずこれらの構造物をつくり、巻き上げ機構となる「ホイスト」を組み込みます。おおまかですが、これが天井クレーンと言われるものです

――設置する工場の広さによって天井クレーンの大きさも変わるし、フックが2つになったり、4つになったり、使い方で仕様も変わってくるということですね。

武田 その通りです。

【実践編】天井クレーンのつくりかた。鉄板を切る、曲げる、くっつける。

――横幅が30メートルって相当でかいですね。具体的にはどうやってつくるんですか?

武田 最初に、当社の営業と設計がお客様と打合せを重ねて「どんな場所に、どんなものをつくるのか」を決めます。最終の仕様が決まれば設計図が製造の現場までおりてくるので、私たちの仕事はそこからです。まずは、設計図に従って、材料となる鉄板を仕入れます。

――30メートルの「桁」をつくるなら、30メートルの鉄板を仕入れてくるということですか?

武田 そうですね。実際にはケースバイケースで、複数の鉄板をつなぎ合わせたりもしますが、まず、そんなイメージで間違い無いです。

――その鉄板を組み合わせて形をつくっていく?

武田 その通りです。例にあげてもらった「30メートルの桁」であれば、30メートルの鉄板を4枚組み合わせます。つまり、4枚の鉄板を溶接でくっつけて、四角柱の形にしていくんですね。他のもの、例えばレール部分なんかも考え方は同じです。設計図に最終形の指示があり、その形をつくるために鉄板を切る、曲げる、くっつけて全部の構造を組み上げていきます。

――とてつもなく大きなプラモデルをつくっているみたいですね。

武田 そう思ってもらって間違い無いですね。鉄板の厚さが最大で12ミリくらいあったりして難しい技術が必要ですが、やっていることはとてもシンプルだと思います。

――完成までにどれくらいかかるんですか?

武田 どんなものでも、だいたい1ヵ月あれば完成します。工場で完成した後は、お客様の現地まで運んで最終的に組み上げます。それで製造の仕事は終了です。

【ウラ舞台編】「スパナって何ですか?」から仕事を覚えた話。

――武田さんは、製造の仕事を始めてどれくらいですか?

武田 もう、10年以上になります。

――ものづくりの仕事が好きで始めたんですか?

武田 それが、そうでもなくて(笑)。親戚の紹介でたまたま入社したんです。それまでは、ものづくりの知識や経験がゼロでした。なにしろ最初は、先輩に「スパナ持ってきて」と言われても「スパナって何ですか?」と聞き返していたくらいですから。

――まったくの素人だったんですね。仕事はどうやって覚えましたか?

武田 現場で実践ですね。先輩の横について、一つひとつ作業を教えてもらって、先輩のマネをして覚えました。最初は天井クレーンなんて聞いたこともなく、現場で何をつくっているのかさえ分かりませんでした。それでも10年やって、やっとひと通りのことが分かるようになってきましたね。

――製造の仕事で難しいところ、面白いところって何ですか。

武田 溶接ですね。難しいしゴールがない。それだけに面白いです。

――溶接のどんなところが難しいですか?

武田 いかに、きれいに仕上げるかというのは職人技なんです。溶接の跡ができるだけ一定の角度やボリュームになるように仕上げていかないといけない。

――「溶接跡の角度やボリューム」というのは?

武田 溶接した後って、金属が盛り上がっているような形状になっているのを見たことがありますか?あれを「ビード」と言いますが、下手くそがやるとビードがグニャグニャ曲がっていたり、場所によって厚さが違ったりします。そこを、正確に、きれいに仕上げるのは今でも難しいなと思いますね。

――上達するためには、どうしたらいいのでしょう。

武田 自分が思うには、体の使い方じゃないかな。まず、30メートルの鉄板をきれいに溶接するためには、一定の角度で溶接をし続けなければいけないんです。そのために、自分がもっとも楽な姿勢、かつ、手元を正確に視認できるのはどんな姿勢かを見つけます。最初は先輩の真似をしながら。途中から自分で。ああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返していく感じですかね。

――野球選手が理想のバッティングフォームを探すみたいな感覚ですかね?

武田 そんなにかっこよくないですが(笑)。考え方は似ているのかもしれないです。

【仕事への姿勢編】何を大切にして“つくること”と向き合っているか。

――今更ですが、「きれいにつくる」って重要なんですか?例えば溶接の跡がきれいでも、きたなくても、きちんと金属が接合できていれば問題ない訳ですよね?

武田 いかにきれいにつくるか、というのは製造という仕事にとってとても重要です。溶接の例ですが、きれいさに拘るのは「溶接がきれい」な仕事は「金属と金属がしっかり接合している」ことに通じると思っています。確かに接合部分を切断してみない限り、内部でどれだけしっかり金属同士が接合しているかは分かりません。ただ、溶接が汚い仕事は、金属がしっかり接合していない可能性が高いです。

――なるほど。きれいな仕事=設備として安全性が高く、長く使い続けられるという機能の証明になるんですね。

武田 私はそう思います。それに、例えば自動車を買うにしても、新車なのにボディがへこんでいたり、どこかのつなぎ目が汚かったりしたら、いかにもすぐに故障しそうでしょう?

――分かります(笑)。そうすると、製造という仕事にとって、最終的にきれいな天井クレーン設備が出来上がったときが一番嬉しいですか?

武田 そうですね。外観がきれいというのが、私の仕事が出せる大きな価値の一つだと思うので。きれいな完成形を見るとやっぱり嬉しいです。苦労が報われる瞬間ですね。

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